2018年3月15日木曜日

タイガー・ウッズの立ち止まる勇気。 「パーを拾い続ける積み重ねが大事」

「初めてみる笑顔だな」
 この写真を撮ったのはタイガー・ウッズの復帰2戦目となったジェネシス・オープン、2日目の最終ホールだった。
 米カリフォルニア州ロサンゼルス郊外にある名門リビエラCCの18番グリーン上。ウッズは残念ながら予選落ちとなったが、キャップを取り、大観衆に笑顔で応えた。
 その瞬間、ウッズの穏やかな笑顔が意味するたくさんの事柄が私の頭の中を駆け巡った。そして、彼のその笑顔を大勢の人々に見てもらいたいという一心で、私は夢中でシャッターを切った。

予選落ちして笑顔を見せるのは「初」?

 言うなれば、ジェネシス・オープンのウッズは「初」づくしだった。
 3週前のファーマーズ・インシュアランス・オープンで1年ぶりに米ツアーに復帰し、2015年以来「初」の予選通過を果たしたばかりのウッズ。
 今週のジェネシス・オープンとその舞台リビエラは、1992年に16歳だったウッズがアマチュアとして米ツアーに初出場した思い出の場所で、思い出の大会。だが、一度も勝利が挙げられなかったウッズはいつしかリビエラから遠ざかり、今年は2006年以来「初」の出場となった。
 さらに、次週のザ・ホンダクラシック出場も発表された。故障、手術、リハビリ続きだったウッズが2週連続で出場するのは、これまた2015年以来「初」のことになる。
 そのエントリーが発表され、「タイガーが来週も出るぞ」とジェネシス・オープンのメディアセンターがにわかに騒々しくなったちょうどそのころ、ウッズはリビエラで第2ラウンドをプレーしていたが、すでに彼の予選通過は絶望的だった。
 初日は5バーディー、4ボギー、1ダブルボギーと出入りの激しいゴルフながら1オーバー、72と踏ん張った。「愚かなボギーさえ減らせれば、リーダーボードを上がっていける」と予選通過に自信さえ覗かせていた。
 だが、2日目はティショットが左右に曲がり、アイアンショットは文字通りグリーンの前後左右に外れ続けた。「愚かなボギー」はむしろ増え、3バーディー、8ボギーの76。通算6オーバーはカットラインに4打も及ばず、予選落ちとなった。
 2日間でフェアウェイキープできたのは、28ホール中13回。グリーンを捉えたのは36ホール中16回。どちらも50%にも満たない内容だったが、ウッズが最後に見せたのは満たされた表情だった。
 予選落ちしても、穏やかな笑顔。そういうウッズの笑顔を見たのは、考えてみれば「初」だった。

立ち止まることが苦手だったウッズ。

 42歳という年齢になり、「人間が丸くなった」と人々は言う。それは確かにあるのだろう。でも、それだけではないはずだ。
 かつてのウッズは、立ち止まることが苦手だった。膝の悪化、腰の悪化を感じ、手術や治療の必要性を感じても、ゴルフ界の王者は常に走り続けたい、走り続けなければいけないと考えていた。
 戦線離脱の期間を最短に抑え、1日でも早く復帰するために、リスクの少ない小規模な治療や手術にとどめ、1分1秒を惜しむかのように闘いの場へ舞い戻った。
 焦っていた? 生き急いでいた? その積み重ね、そのツケが回って抜本的な治療の必要性に迫られた。
 それが昨春に受けた4度目の腰の手術。リハビリに時間を要したが、リスクがあった分、回復度も高く、それが復帰戦となったファーマーズ・インシュアランス・オープンでの予選通過につながった。
 そして今週は、自身が率いる財団(タイガー・ウッズ財団からTGR財団へ改名)がサポートするジェネシス・オープンに大会ホストとして出場し、来週は大陸を横断して2週連続で出場する。

「何年も僕にはできなかったこと」

 そんな日程が組めることは、走り続けてきたウッズが初めて立ち止まった決断が正しかったことの証。着実にネクストステップを踏んでいることの証だ。
「不満なこともあるけど、こうして試合に戻ってくることができて、ラウンド後は毎日、練習もできている。それは、ここ何年も僕にはできなかったこと。そう、大事なのは積み重ね。これからも積み重ね続けていきたい」
 なるほど。36ホール目で見せたあの笑顔は「積み重ねている」という実感の表れ。そう思って眺めていたからこそ、眺めていた大観衆もみな笑顔になったのだろう。

優勝争いだけがゴルフじゃないのだ。

 人生も、ゴルフも、復活のストーリーも、よくよく眺めれば、たくさんの小さなコマが連なって、その集大成が1つのドラマになる。
「みんなが忘れてしまいがちなことがある。サンデーアフタヌーンで起こることがすべてだと思われがちだけど、そうではない。大事なのは積み重ね。パーを拾い続ける積み重ねだ。僕はその積み重ねを、長い間、やってきている」
 サンデーアフタヌーンならぬフライデーの夕暮れどき。最後にそう言って、ウッズは再び笑顔を見せた。
 予選落ちしても、穏やかな笑顔――。それは、かつてのウッズなら見せるはずもなかったものだが、初めて見たウッズのその笑顔は、一歩一歩、踏みしめながら生きることの素晴らしさを表現しているようで、なんとも心地いい笑顔だった。
舩越園子



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