2014年10月2日木曜日

ゴルフ・プレー前夜に読むクスリ 夏坂健

レッスン書を読まなくてもうまくなる法




“マナーに厳格な鍋島藩21代当主のゴルフ道”


バンカーから、見事なエクスプロージョンでボールを旗竿にピタリと寄せる。
足跡をきれいにならしてバンカーを出ると、キャディを手招きしてバッグから小さな“はたき”を取り出す。



柄の長さは約20センチ、先端に細く切った布を約10本ほどからめた特注品だ。
それを手にして、スパイクやズボンのすそについた砂を優雅な動作でパタパタと払い落とす。



これが有名な「殿様のはたき」である。
また、前半の9ホールが終わったところで、ロッカールームに直行、上から下まですっかり着替えてしまう。



「気分一新は、これに限ります。オシャレもゴルフの愉しみの一つですから」
マナーには格別やかましかった。



ゴルフというエスペラントなスポーツが、王侯貴族を中心に発展してきた長い歴史を考えるならば、品位と礼節を重んじ、様式美にこだわるのは「ゴルファーの義務」だといい続けた。



“狂いを減らす唯一の方法とは?”


鍋島が初めてクラブを握ったのは、11歳のとき。
病弱な息子にゴルフを教えた父親の鍋島侯爵は、渋谷区松濤町にあった鍋島農園の中に練習場を与えた。



「始めたからには手抜きはイヤだ。たとえば字を書いても、日によって調子がちがうように、人間のやることはいつも同じにはいかない。少しでも狂いを減らす方法としては、毎日の練習しかない、そう思って毎日ボールを打ち続けた」



当時は信頼のおけるレッスンプロもいない暗黒時代で、
赤星四郎、六郎兄弟も帰国しておらず、といってハンディ22の父親はたちまち追い越してしまった彼は、仕方なし、あちらからとり寄せた「アメリカン・ゴルファー」という雑誌に載っている
ハリー・バードンやウォルター・ヘーゲンの写真を見て、その真似をすることで無理のない華麗なスウィングを身につけていった。



やがて18歳になったとき、鍋島直泰にとって人生の師とも呼べる巨星、赤星六郎がアメリカから帰国する。



あちらのスプリングス・トーナメントで優勝した赤星は、日本に初めて本場のゴルフを持ち込んだ人物であり、プロ、アマを問わず、乞われれば親切に指導した。
もちろん鍋島も赤星の門を叩いた。



「グリップが良くない。たいていのゴルファーは握り方を間違えている。そのためにいくら練習しても壁にぶつかってしまう。かなりの上級者でも悪いグリップの者もいるが、その場合は大事な局面でミスショットが出ることが多い。まず正しいグリップを身につける努力を始めなさい」
赤星は、鍋島少年にこういった。



“スウィングの奥義――それは自然にまかせて球を打つことだけに集中すること”


1930年、鍋島は日本アマを初めてクォリファイ(予選通過)して本線に臨んだが、第1回戦の相手がなんと師匠の赤星六郎という皮肉。



もちろん勝てるはずもなかったが、どこにも無理のない流麗なスウィングに多くの人が注目した。
たずねられて、スウィングの奥義を次のように語っている。



「目的は球を打つことだ。バックスウィングをどうしたらいいかと悩むのは、たとえば静止している人間が、さて、これからどうしたら歩き出すことができるかと悩むようなものである。気持ちを球に集中すれば、自ずとスウィングが出来上がるはずだ」



1933年から連続3回、鍋島は日本アマ選手権に優勝する。
ついにアマ・ゴルフの頂点に立った翌日も、いつもと変わらず彼は黙々と練習に励んでいた。



「誰にも煩らわされずに、静かなところでボールを打ち続ける。これが本当の練習であり、私の趣味であります」



人間が歩くように、球を打つという動作が自然に行えるまで練習する、調子の乱れを最小限にとどめるため、練習は1日たりとて休まない、これが鍋島のゴルフだった。



アイアンのうまさには定評があったが、1961年3月5日に程ヶ谷カントリー倶楽部で行われた弥生杯の試合中、10番と17番のショートホールで連続ホールインワンを達成、同日ダブルエースの日本記録保持者となった。



日ごろから、殿様はおっとりした口調でこういった。



「ゴルフはどこを見ても、本当にオシャレなゲームです。粋な遊び心と、洗練されたマナーと、それら自然に対する畏敬の念と、科学する心も要求されます。これがよくわからない人にとっては、ただのタマ転がしにすぎないでしょうね」
鍋島直泰




(><)
たったこれだけの文章に、600年、700年ともいわれている
ゴルフの歴史とそのエスプリが込められていると私は思います。



この文章を読んでゴルフへの思いが変化したならば、
今からでも遅くはない、ゴルフのエスプリを極める努力をしてみてはいかがでしょうか?



間違いなく今まで味わったことのないゴルフと出会えるだろうし、
感動も味わえるだろうし、ゴルフはきっと人生の教訓を教えてくれることでしょう。
ki銀次郎

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