2013年8月30日金曜日

ゴルフを以って人を観ん

緑にお遍路さんたち
ゆめ、ご油断召されるな。
芝の上のあなたは、裸なのですぞ!

(夏坂健)
“人事異動はゴルフで決める”
(元旭川信用金庫理事長 松田忠男)

会長、社長ともに大のゴルフ好きとあって、シアトルに本社を置く水産会社「UMC」では、社員の誰もがゲームに親しんできた。
1975年当時の会長、J・N・サクソン氏にとって、夏休みこそ1年で最も多忙な時期である。


海外駐在幹部も含めて、およそ60人の管理職全員を順次ホームコースに招くと、毎日3人が相手、プレーに興じるのだった。


「相互理解を深めるのに、ゴルフほど素晴しいゲームはない」
表向き、会長はこのように語っていたが、本当の狙いは別なところにあった。


「真の目的は人間観察にある。共に過ごす時間が長いゴルフでは、
いかに隠そうとしても人柄が丸出しになるものだ。私はプレーを通して、さりげなく素顔の観察に勤しみ、その結果を分析して人事異動に役立てた」


彼は、危機管理能力が問われるゴルフを巧みに利用して、優秀な人材を選出、適材適所に配して業績を一挙に10倍も伸ばしたのである。


「たとえば、同伴競技者の放った素晴しいショットに対して、
心から拍手を贈る人がいる。反対に口先だけで、実際には無視するかの如き狭量の人物もいる。私の評価はこの瞬間に決まるといって過言ではない。


心から人のファインプレーに感動できるのは、その人がフェアな精神の持ち主である証拠。
反対に人を褒められない性格は陰湿であり、おそらく嫉妬深くて、
人に好かれることがないように思う。従って重責職に起用できない」



たかがゴルフと言うなかれ。炯眼(けいがん)の持ち主は裏の裏までお見透しなのだ。



JAS旭川CCでプレーした日、同伴競技者が短いパットを大胆にポンポン放り込む。そこで松田さんに小声で伺ってみた。


「何とも思い切りのいいパッティングをしますね。あの歯切れのいい人物にカネはかしますか?」
「はい、貸しましょう」
あまりに闊達(かつたつ)すぎて、笑うしかない。


コットランドの諺に、
「ケチはバンカーが下手だ」とあります。


要するに思い切りが悪いということでしょう。
バンカーの下手な人にカネを貸しますか?
「はい。ケチとは金銭感覚がしっかりしている人の代名詞です。貸しましょう」
大人(たいじん)はニコニコ笑って動じない。



「ほう、ナイスショットだ!」
「素晴しい。本当にうまい!」
「いいねェ、最高!」


松田さんは、同伴競技者のファインショットに心からの賛辞を
惜しまない。ごく自然に称賛が口をつく。


それは相手に聞こえよがしのものではなく、むしろ呟きに近い感嘆詞といった口調だが、それゆえに純粋さがストレートに伝わってほのぼのとした気分に包まれる。

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