上手いゴルファーよりも美しいゴルファー、
誇りあるゴルファーになろう。
鈴木康之
~ゴルフ場には雨が降っても来い~
封筒の差出人を見て、首のあたりが寒くなったことを未だに忘れません。「三井物産株式会社 相談役 八尋俊邦」
15年前ほど、社内誌にエッセイを連載していました。
ゴルフに入れ込んでいる人の可笑しさと、もちろんその人への好感を書くシリーズでした。
ほとんどは私の知己でしたが、たまたまその月の号に、面識はなかったのですが、近い人から聞いていた八尋さんのゴルフ宿命論を書いたのでした。
それはすでに世によく知られた氏の有名な自論であり、もはやプライバシーでもないので、お断りもせずに書きました。
「断りもなしに書いた」とのお怒りの手紙か。私は震える手で封を切りました。
ボールペンで横書き、激しい筆跡の文字がびっしりの便箋2枚。
私の名に「殿」がついているものの、なぜか左肩の鈴の字に赤鉛筆でカギカッコが記されていた。
これ、抗議の書簡の様式なのだろうか。拝啓も前略もなし。
のっけから「突然御手紙差し上げますが」で書き出し、公的機関の運営委員の仕事で岩手県に向かったいきさつが書かれてあって、その車中、「キ殿のゴルフ随筆に小生の名前があり・・・」と。
「貴」殿ではなくキ印の「キ」だ。
ああ、やっぱりと首が縮こまる思い。
ご自分のスウィングの仔細なご説明が5、6あり、
「人それぞれに産まれついたSwingのくせがあり、偶々そのくせがゴルフ向きか否かでその人の腕前が決まる。その証拠にゴルフ向きのくせのある人は見る見る内に上達、ハンディを縮めるが、不向きの癖の持ち主はどんなに猛練習を積んでも上達不能、20年かかってやっとシングルになった人見たことなしです。(中略)ワトソンと廻ってもAdviceは受けないし、岡本綾子の云うことも聞かない。練習場で球を打っても無意味、その人のハンディは決まっていて後天的に変えるのは至難」
八尋さんの天下一品の明治の大砲、右足1本軸打法も癖なら、トム・ワトソンのスウィングはあれも癖だというのです。
笑いたいけれど笑えません。
しかるにキ兄は私のゴルフを笑うのか。と心配は募るばかりです。
「無駄なことを積み重ねるより、手頃な相手を見付けてゴルフを楽しむことに専念していて、連休、3連休、構わず連戦をモットーとしている。仲間の弱っていくのを見るとゴルフで足腰鍛えることが何よりと痛感、雨の日、風の日、風雪に堪えて頑張って今年で八十歳を迎えました。お蔭で私の産まれながらに決まったハンディという説に友人の80%が賛成してくれている。
以上、私の宿命論の根拠を詳しくお伝えして私に関する記事掲載の御礼とします。キ兄益々の活躍を祈ります」
私はもう一度読み返しました。
こんどは80歳のくだりにはじんとくるものを覚え、80%の下りには心で拍手しました。
わざわざお手紙をかいてくださった八尋さんのゴルフ好きを思いながら、しばらくは便箋を畳めずにいました。
八尋さんクラスの偉いさん同士のゴルフの書状には
「雨天の場合は連絡いします」
と書き添えるのが礼儀のようです。
しかし、八尋さんからの案内状には一度たりともそれがなかったというのも有名な話です。
鈴木康之
(><)
私は雨の日のゴルフが意外と嫌いではありません。この年になって雨に濡れることなど普段の生活には存在しない。だから少し楽しいのです。
2ヵ月も3ヵ月も前から約束していたゴルフを、雨だからといって自分からキャンセルしようとは私は思わない。
しかし、高齢者との約束した場合は風をひかないように配慮するようにしています。
雨の日に芝生の上を歩く幸せは、ゴルフ場でしか味わえない貴重な時間なのです。
ki銀次郎
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