2016年4月11日月曜日

◆フェスティナ(急ぎなさい) レンテ(ゆっくり)



真理は常に普遍的だ

ゆっくり急げ(アメリカ・イギリス)
ゆうくり行くことを恐れるな(中国)
ゆっくり行くものが遠くまで行く(イタリア)
急ぐなら、もっとゆっくりせよ(イギリス)
急いで行こうと思ったら古い道を行け(タイ)
ゆっくり行くものは確実に行く(フランス)
遅くとも、ぜんぜんしないよりはよい(ドイツ)
急げば急ぐほどまずくゆく(フランス)
急がば回れ(日本)
急ごしらえの仕事は悪魔が入り込む(トルコ)



香港に、ザ・ロイヤル・ホンコン・ゴルフ・クラブ(現・香港GC)という1889年開場の歴史あるゴルフ場がある。
そこの標語が「Festina lente(フェスティナレンテ)」。すなわち「悠々として急げ」。


わたし(島地勝彦)は編集者として文豪・開高健とはともにパイプで紫煙をくゆらせ、名手・中部銀次郎とはともにフェアウェイを歩くという僥倖に恵まれた。ふたりにひとつだけ共通点があるとすれば、それはふたりともに「悠々として急げ」というタイトルの著書がある。きっかけは、一枚のTシャツだ。


あるとき、中部さんがザ・ロイヤル・ホンコン・ゴルフ・クラブでプレーした。クラブの標語をいたく気に入った中部さんは、フェスティナレンテとプリントされたTシャツを買って帰ってきて、それをボビー・ジョーンズ『ダウン・ザ・フェア・ウェイ』の翻訳者としても有名な菊谷匡祐さんにお土産として渡した。



気に入った菊谷さんは、それを着て茅ヶ崎の開高文豪の家を訪ねた。
「なんやそれ?」
と興味
を覚えた開高文豪に菊谷さんが言葉の意味を説明すると、今度は文豪がそれをいたく気に入ったんだね。
墓碑に刻むまでに、その言葉に淫した。


さて、その開高さんはゴルフをプレーしたのだろうか?答えはNOだ。むしろゴルフが大嫌いだった。なぜか?その理由がまた面白い。


開高さんは文芸評論家の小林秀雄が嫌いだった。小林秀雄が、ついに作家・開高健のことを認めなかったからなんだが、そこで問題は小林秀雄が大のゴルフ好きだったということ。


では開高さんはゴルフクラブを握ったことがなかったのかといえば、それもNOだ。実は一度だけゴルフの打ちっぱなし行ったことがある。もともと体操の選手だったスポーツマンだから、スジもよかったらしい。


もし文豪がゴルフに淫していたら、釣りにおいてそうであったように、珠玉のゴルフ・エッセイを遺していたのは間違いない。ゴルファー諸氏は、恨むなら小林秀雄を恨むべきだね。


フェスティナレンテはもともとローマの初代皇帝・アウグストゥスの座右の銘だったそうだ。


地中海世界を統一した英雄人によって香港のゴルフ場の標語として掲げられ、市場最強のアマチュアゴルファーと、ゴルフが大っ嫌いだった作家を結びつける。



人生は恐ろしい冗談の連続だが、時にはこんなステキなこともあるんだね。島地勝彦

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