2016年11月15日火曜日

勝ち続ける人があえて「2位」を目指すワケ(東洋経済オンライン)

芹沢信雄(コーチの神髄)
能力は高いのに、ここぞというとき力を発揮できない。つまり本番に弱い。こう言うと、その人の「メンタルの弱さ」が指摘されがちですが、実は、気持ちの「強さ、弱さ」以前に、「仕事を進めるうえでの心構え」に問題があるケースもある――。

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そう語るのは、藤田寛之、宮本勝昌、上井邦裕、西山ゆかり、木戸愛ら、ゴルフ界の有名トッププロたちが師と仰ぐ、芹澤信雄プロ。

一匹狼も多いプロゴルファーたちが自然と集まり「チームセリザワ」を結成、続々とメンバーたちが勝利を収めています。
『チームセリザワに学ぶ「強くなる」思考法』の著書もある芹澤氏に、勝負どころで力を発揮するための秘訣について聞きました。

■「稼げること」がプロの証

アマチュア選手としてのキャリアもなく、たたき上げのプロゴルファーである私は、デビューしたてのころ、優勝とかトップテンなどは夢のまた夢でした。高校、大学で華々しい戦績を収めた後にプロ入りする選手とは大違いです。

しかし、人一倍練習を重ね、先輩プロの技を観察し、時には直接指導を仰ぎ、スキルアップを目指しました。そのかいあって、長くレギュラーツアーでプレーができ、通算5回の優勝を勝ち取ることがきました。
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そんな私のもとに、「一緒に練習したい」「ゴルフを見てもらいたい」という後輩が集まってきました。藤田寛之、宮本勝昌、上井邦裕、西山ゆかり、木戸愛といった選手たちです。ほかの親しいプロも参加して、やがてそれが「チームセリザワ」となりました。


■「プロフェッショナルとは?」

そう尋ねられたとき、人によって答えはさまざまでしょう。プロゴルファーとしての私の答えはじつにシンプル。「稼げる選手になること」です。もちろん優勝を目指すことは大事ですが、優勝ばかりを意識し、無謀なプレーで上位から転落するのと、状況を見極め、潔く2位を確保するのと、どちらがプロとして大事なことか。私はチームセリザワのメンバーにそのことばかりを話しています。

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■「絵空事のベストよりも、実現できるベター」
プロはまず、シード権(翌年のツアー出場権)をとること。これがプライオリティのトップです。どんな仕事であれ、いちばん大事なことは、戦える「土俵」を持つことです。

考えようによっては、消極的な考え方と思われそうですが、それは違います。優勝というベスト(最高)だけを求めることは、現実的ではありません。それよりもシード権を主軸に置き、状況を見極め、その時々のベターを目指す。

そのベターを実現するために、目前の課題を一つひとつクリアする。そのプロセスを積み重ねながら着実に自分のスキルを向上させていくのです。それが結局は「優勝」という高い目標も手繰り寄せるのです。

「絵空事のベストよりも、実現できるベター」
 それがプロとして、また「稼げる選手」への正しい道なのです。
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■西山ゆかり選手が未知の世界で学んだこと
20158月、札幌国際カントリークラブで開催された「meijiカップ」。その試合で、西山ゆかり選手はプロ転向7年目にして初優勝を飾りました。その約1年前にチームセリザワの一員になった選手です。

予選、決勝と3日間を戦い、8アンダーで優勝を勝ち取りました。簡単に優勝できたように思われそうですが、トロフィを手にするまでの道のりは、やはり大変でした。

最終日、鈴木愛選手に17番ホールで追いつかれ、プレーオフに持ち込まれてしまったわけですが、しかし、そのプレーオフを前に、キャディである私の「ミッション」は終わっていました。

「なぜ?」と思われるでしょう。そのミッションとは、これまでいつも最終日に自滅していた西山選手に、崩れることなく優勝争いをさせることでした。

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仮にプレーオフで敗れても、2位は確保できる。賞金ランキングからシード権もとれたわけです。つまり「稼げるプロ」の階段を一段上がったわけです。

「最後は自分で頑張るしかないよ」

もし優勝したいのなら、あとは自分自身で解決するしかありません。ですから、プレーオフでは、ほとんどアドバイスはしませんでした。

結局、私が口にしたのはひと言だけ。プレーオフ2ホール目、先に5メートルのバーディパットを決めた西山選手へのひと言でした。

「まだ勝ったと思うな。相手が終わるまで勝ったと思うな。次のホールにもう1回行くつもりでいろよ」

先にバーディを決めて、緩みそうになった気を引き締めたのです。西山選手の弱点は、「メンタル」だった

西山選手の弱点は、「メンタル」です。百戦錬磨のプロであれば、その経験から、どんな状況になっても気持ちを切らすことなく戦えます。しかしこのとき、西山選手は未知の世界にいたのです。

優勝争いという未知の世界です。そんな未知の世界で、唯一、心の支えになれるのは、キャディである私だけです。優勝争いやプレーオフで、相手のパットが外れれば勝利というとき、選手によっては、心のなかでこう叫ぶかもしれません。

「外してくれ!」

しかし、こうした局面で相手のミスに期待することは禁物です。自分のプレーが、そこで終わってしまいます。同伴競技者のプレーに一喜一憂していては自分のプレーに集中することはできません。真の勝負とは、相手との戦いではなく、自分との戦いなのです。

やるべきことは、自分のプレーに集中すること。そのように導くことが、指導者である私の役目です。

■西山選手はその後、ツアーでは上位の常連に
結局、鈴木選手は、下りの2メートルのバーディパットを外し、西山選手が栄冠を勝ち取りました。

しかし、鈴木選手のパットの瞬間、西山選手は「外せ」などとは、これっぽっちも思っていなかったはずです。彼女の心のなかには、次のホールに向けての準備しかなかったに違いありません。
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勝ちパターンを引き寄せて、手放さないメンタルのつくり方は、優勝した人間でなければわかりません。しかし、その優勝を手にするためには、前述したように、目前の課題を一つひとつクリアし、着実に自分のスキルを向上させていくしかないのです。

西山選手は初優勝以降、ツアーでは上位の常連になっています。「meijiカップ」の成功体験が、彼女に勝つため、あるいは崩れないための戦略、心構え、メンタルコントロールを身につけさせたのです。


■短所に目をつむり、長所を伸ばすべき
日本ツアー51(歴代2)の青木功プロは、優勝の数より2位の数が圧倒的に多かった選手です。しかし、その多くは競り負けたのではなく、状況を見極め、自ら求めた2位だったのではないかと思います。だからこそ勝負どころではきっちり勝ち、51もの勝利を挙げられたのではないでしょうか。これこそが「強くなる思考法」です。

性格面で考えた場合、長所と短所は表裏一体。見る角度によっては、短所も長所になりえます。たとえば、藤田寛之選手には比類まれな長所があります。

「こうと決めたらテコでも動かない。納得するまで続ける根気がすごい」

そして、短所は「頑固」。これは見る角度によっては異なりますが、本質的には同じことです。要はそうした自分の特性を知って、バランスよく活かしていくことが重要です。

■短所には目をつむり、徹底的に長所を磨く 
一方、技術面はというと、こちらは短所には目をつむって、長所を伸ばすことに心血を注ぐべきと考えます。

藤田選手の長所は、パター、アプローチなどの小ワザがうまいこと。短所は、私と同じで飛距離がないこと。

飛距離を伸ばすには、スイングを変えなければなりません。ギアを変えるという手もあります。しかし、そのクラブの利点を生かすスイングを身につけることは容易なことではありません。最悪の場合、スイング改造に失敗して、長いスランプに陥ることにもなりかねません。

それよりも長所を磨く。私はまず、オールラウンドプレーヤーよりスペシャリストを目指します。これが個性となり武器となるからです。

「自分らしく」

私が大事にしている言葉です。私には36歳のとき、PGAツアー(米国男子ゴルフツアー)のテストで飛距離の壁にはね返された経験があります。

実はこのとき、飛距離を伸ばすためのスイング改造に取り組んだのです。結果、スイングはガタガタになり、その後5年間の成績はひどいものになってしまいました。自分の持ち味を忘れていたことを痛感しました。

■忘れられない、ジャンボ尾崎さんの言葉
これに気づき、スイングを修正し直して、40歳のとき(2000)に「東建コーポレーションカップ」で優勝することができました。
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私の場合、ドライバーの飛距離は自慢できるものではありません。たとえば、ロングヒッターがロングホールを2打でグリーンオンする場面でも、3打でグリーンオンしてワンパットでバーディー、2パットでパーという攻め方をすることが少なくありません。


ミドルホールでも、ロングヒッターなら2打でグリーンオンして、パットが決まればバーディー、2パットでパーをとることができます。しかし、私の場合はパーオンができずに、いわゆる3打でグリーンオンして、ワンパットでパーを拾う“寄せワン”のゴルフを強いられることが多いのです。飛距離が出ないのは、私の短所。一方、寄せ、パットのうまさは長所です。

■ジャンボ尾崎さんの言葉
1997年の「中日クラウンズ」を忘れることはできません。最終日、最終組でジャンボ尾崎さんと一緒にまわりました。ジャンボさんが3連覇したときのことです。この試合で私は2位になりました。表彰式でのジャンボさんの優勝インタビューの言葉はいまでも忘れません。

「今日のパートナーは最高だった。あれだけパーパットを入れる選手は見たことがない。芹澤のパーパットは世界一だ」

私のスタイルが、ジャンボさんに、そして世間に認められた瞬間でした。本当に感激しました。そうした経験がチームセリザワにおける私の指導方針を決定づけたと言っていいでしょう。

■「短所を改善させるよりも、長所を見つけてそこを伸ばす指導」
逆の意見もあるでしょうが、明確な方針を示すことは、指導者として、またリーダーとしての大事な役目と思っています。

皆さんでもし、壁や限界を感じている人がいるとしたら、ぜひ自分の長所を徹底的に磨いてください。短所を補って余りあるものにすれば、必ず道は開けるはずです。

芹澤 信雄

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