2013年8月30日金曜日

“チャンスはきっとやってくる”

ゴルフの森(舩越園子)

ゴルフに憑かれた者たちは、皆その深い森へと迷い込む
世界の一流選手が集まる米PGAツアーで優勝するのは大変だ。
毎週、毎試合、出場選手の誰もが
「今週こそは自分が勝つ」
と密かなる闘志を燃やしている。


誰にも勝つチャンスがある。
しかし同時に、その公平性は
「誰もが勝ちそこなう」
「誰もが悔しさを味わう」
「誰もが不調に陥る」
危険性と隣り合わせなのだ。


勝ちたいという気持ちは強い。必死に練習し、
必死に努力もしている。
けれどなかなか勝てない。


そんな日々を多くの選手たちがくぐり抜けていることを、しばしば取材を通して思い知らされる。


2013年トランジションズ選手権で優勝したのは、2003年の全米オープンの覇者、
過去に13勝を挙げてきた実力者、ジム・フューリックだった。

トップの切り返しで「8の字」を描く変則スウィングは、その度合いは小さくなったものの、相変わらずの変則だ。


39歳のジム・フューリックは2007年のカナディアンオープン優勝を最後に勝利から遠ざかっていた。
2位や3位には何度も入った。


トップ10フィニッシュは昨年が11回、一昨年が9回、
惜しいところまでいくのだけれど、なかなか勝てない・・・・・
本人の苛立ちは相当なものだった。


今年のトランジション選手権にやってきたときも、
「いつ勝てると思う?」
という質問を浴びせられ、
『その質問にはうんざりだ』
と答えた。


「ずっと勝ってないから、いつ勝てるのか?と聞く質問がそんなに嫌なのか?」


フューリックいわく
『誤解しないでほしい。質問されていることに対して、うんざりだと言ったんじゃない。そんなに長い間、自分が勝ってないという事実を突き付けられ、認めざるを得ない状況にうんざりしているんだ』
ほぼ3年。32ヶ月58試合、勝っていなかった。



『どんなに一生懸命に練習しようとも、
その成果がなかなか出ないってことはわかっている。だから、毎週、毎試合、今度こそ優勝するぞという変わらぬ目標を抱いて試合会場に
やってくる』



その繰り返しの末、迎えたのが今年のトランジション選手権だった。
優勝から遠ざかった歳月、苦しんだ歳月が長ければ長いほど、
再び目前に迫った「勝利」の二文字は重いのだろうと感じた。


振り返れば、ジム・ヒューリックが優勝を逃して帰っていく姿を
過去に何度も見た。


2003年フォード選手権(現GCCA選手権)での惜敗だ。


最終日、ジム・フューリックは夕暮れの中でスコット・ホークと
プレーオフを戦っていた。
2ホール目。3mのバーディパットを残して、ホークが
「もう暗くてラインが見えないから、ここで日没サスペンデッドにして、翌朝、再開したい」と主張した。


mのバーディパットを残していたジム・フューリックは、
自分が希望すれば、そのホールを終えることもできた。


だが、『スコットの主張通りでいい。ファンには申し訳ないけど優勝がかかっているからね』と同意。


そして翌朝、2人はプレーオフ3ホール目へ進み、
わずか20分間の戦いはホークのバーディで終結した。


敗北したジム・フューリックは、しかしあからさまに肩を落とすでもなく、淡々と帰り支度を始めた。
待っていた妻と一緒に荷物を駐車場の車へ運び、
『さあ、次の試合会場へ向うよ』
と言って、少し淋しそうに笑って見せた。


本当は心が泣いていただろうけど、
「落ち込んでいる暇はない。いくら自分が頑張っても勝てないときは勝てない。次の試合でまた勝利を目指すだけ」
と自分に言い聞かせているように見えた。


ジム・フューリックが全米オープンで優勝したのは、その3ヶ月だった。


誰にも勝つチャンスがある。
そして、誰にも勝ちそこなうことがある。


頑張っても報われないこともある。
けれど頑張っていれば、誰にも、いつか報われるチャンスが巡ってくるということを、

ジム・フューリックが教えてくれた。

舩越園子

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